床とこの間まの前に碁ご盤ばんを中にすえて迷めい亭てい君と独どく仙せん君が対座している。「ただはやらない。負けたほうが何かおごるんだぜ。いいか...
「あなた、もう七時ですよ」と襖ふすま越ごしに細さい君くんが声をかけた。主人は目がさめているのだか、寝ているのだか、向こうむきになったぎり返事...
主人はあばた面づら*である。御ご維いつ新しん前まえはあばたもだいぶはやったものだそうだが日英同盟の今日からみると、こんな顔はいささか時候おく...
垣かき巡めぐりという運動を説明した時に、主人の庭を結ゆいめぐらしてある竹垣のことをちょっと述べたつもりであるが、この竹垣の外がすぐ隣家、すな...
吾わが輩はいは近ごろ運動を始めた。猫ねこのくせに運動なんてきいたふうだと一概に冷れい罵ばし去る手合いにちょっと申し聞けるが、そういう人間だっ...
こう暑くては猫といえどもやりきれない。皮を脱いで、肉を脱いで骨だけで涼みたいものだとイギリスのシドニー・スミス*とかいう人が苦しがったという...
二十四時間の出来事をもれなく書いて、もれなく読むには少なくも二十四時間かかるだろう、いくら写生文を鼓こ吹すいする吾わが輩はいでも*これはとう...
例によって金田邸へ忍び込む。例によってとは今さら解釈する必要もない、しばしばを自乗したほどの度合を示す言葉である。一度やったことは二度やりた...
三み毛け子こは死ぬ、黒は相手にならず、いささか寂せき寞ばくの感はあるが、幸い人間に知ち己きができたのでさほど退屈とも思わぬ。せんだっては主人...
吾わが輩はいは新年来多少有名になったので、猫ながらちょっと鼻が高く感ぜらるるのはありがたい。元がん朝ちよう早々主人のもとへ一枚の絵はがきが来...
吾わが輩はいは猫ねこである。名前はまだない。どこで生まれたかとんと見けん当とうがつかぬ。なんでも薄暗いじめじめした所でニャーニャー泣いていた...